最上峡芭蕉ライン観光株式会社で働く女性初の船頭。
平成11年12月の山形新幹線新庄延伸に向け、観光客を呼び込もうと女性船頭を募集したものの、一人も集まらなかったことから、「私がやります!」と自ら志願して船頭の道へ。
男性が主だった職種に風穴を開けたおかげで、現在は4名の女性船頭が活躍している。


"もともと「船頭をやってみたい」という気持ちがあったので、迷いは特にありませんでしたね。
私が船頭になってから2年後に、2人目の女性船頭が生まれ、現在は私を含め、4名の女性船頭が頑張っています。"

"何事も続けることって大事なことだなぁって本当に思いますね。"


Q.どんなお仕事をされていますか?

最上川舟下りの船頭として、お客様を舟に乗せて1時間の舟下りの旅の案内役をしています。

とはいえ、船頭の仕事の中で、それはほんの一部に過ぎないんです。それ以外の仕事が多く、舟の管理や整備、掃除などに費やされます。
実は今日乗っている舟のお客様が使っている座布団も私が作った物なんですよ。
季節に合わせて舟の仕様を変えていきますので、その準備はとても忙しいです。
男性の方々がしてくださることが多いんですが、河川清掃も船頭の立派な仕事の一つなんです。

船舶課に所属し18年目となる現在は、配船の仕事も多くなっています。
舟の司令塔として、桟橋でパソコンやタブレットを使って、時刻管理や乗船人数の管理などを担当しています。

もちろん舟に乗って、お客様に名所を案内したり、最上川舟歌を歌ったりする仕事が大好きですよ。
最近は、舟歌も外国人観光客に向けて、海外バージョンが増えて、英語・韓国語・中国語・フランス語まであるんです。
船頭として仕事をしている職員はほぼ全員が歌えますし、海外のお客様に限らず、大変好評で喜んでいただいております。
 

Q.この仕事に就いたきっかけは?

私は高校卒業後仙台に行き、住み込みで和裁を学んでいたのですが、3年過ごした頃、家族の事情で地元に戻ることになりました。
和服の仕立てをしながら郵便局で臨時職員としても働いていました。

そんな中、平成7年の夏に、知り合いから「芭蕉ラインが忙しいから手伝ってくれないか」と誘われ、現在の会社でも働くようになりました。
仕事3つ掛け持ちでしたが、どれも楽しかったですよ(笑)。

当時は女船頭というものがなかったので、普通に売店の売り子として働き始めましたが、親戚からは冗談で「船頭したらいいんねがわ〜(笑)」なんて言われたりもしていました。
でも、その時点ではそこまで現実的な話ではなかったんですよ。
働き出すと接客や販売の仕事は楽しかったし、頑張れば数字にも表れたりしてきて、翌年には正社員として入社することになりました。

転機は平成11年12月の山形新幹線新庄延伸に向けて観光客を呼び込むために、女性船頭を募集した時ですね。でも、2名の募集に対して全く応募がなくて、そこで、平成10年の忘年会の席で、「私がやります!」と手を挙げたんですよ。
結局、11年4月に2名の女性船頭がデビューの予定でしたが、私1人のスタートとなりました。
 

Q.周囲の反対や抵抗は無かった?

驚きはありましたが、反対や抵抗は無かったと記憶していますね。

当時船頭は46名ほどいましたが、もちろんすべて男性で年齢層も幅広く、特に年配の方々には可愛がって頂きました。
私自身も、売店で働いていた経験や計算好きが役に立って、約1時間の乗船中、たった5分ほど立ち寄る売店での接客もスムーズに出来ましたし、何より舟に乗ることが楽しくて、すぐに馴染めました。


Q.やっていて大変だったことは?

大変なことはそんなにはありませんでしたね。
というか、きっとあるんでしょうけど、初めの頃はわからないことや難しいこともあったんですが、持ち前の陽気さで乗り切った感じですね(笑)。
どちらかというと、プライベートでどんなに大変なことがあっても、この仕事が助けてくれたという感じが大きいですね。

ただ、船頭の語り自体は本当に初体験だったので、最初は先輩方の案内ガイドを録音して、家で何回も聞きながら猛勉強しました。
 

Q.やっていて良かったことは?

たくさんありますが、まずは「海外に行かなくてもこんなに良いところがあるんだね」と言われたことが嬉しかったですね。
確かに、春夏秋冬で景色がまったく変わりますし、この地域の自慢である自然に囲まれて、こんなにロケーションの素晴らしいところで毎日働けることに幸せを感じましたね。
それと同時に誇りを持った瞬間でした。

また、地域の魅力という点で言えば、方言を使えるところも良いところだと思います。
私は小さい頃、明治生まれのひいばあちゃんとよく一緒に過ごしていたので、言葉は昔ながらの方言だし、昭和の歌謡曲などもたくさん知っていて、今は特に海外のお客様に喜ばれています(笑)。民謡は勉強しましたね。

あとはやはりお客様との一期一会の出会いです。
中には、「春美船頭の舟に乗りたい」と指名してくださる方もいます。
一枚の御礼状にはじまり、今では遠くの親戚みたいに、年に何度も電話や地元からの贈り物のやり取りをするようになり、私が留守でも母とお客様が話をしているくらいです。
色々なお客様とふれ合うことができるのは、この仕事をしていて良かったなぁと感じるところです。
 

Q.春美さんの性格は?

マイペースだと思います。でも意外と小心者です。
仕事柄か、そんなふうには見られないんですけどね(笑)。
悩むには悩みますけど、それは仕事の時には見せません。
あとは、今でも和裁が好きなのもあって、全体的に几帳面で細かい作業も好きですよ。
 

Q.リラックス方法は?

私の場合、仕事自体がストレス解消になっていますね。
毎日素晴らしい自然に囲まれていますので、それで大いにリフレッシュしているのではないでしょうか。
四季折々に変わる景色が見られるのは本当に楽しいですよね。
私の場合、休日はほとんどが平日なので、なかなか子どもと予定が合わないので、普段は祖父母が見てくれていますが、月に1〜2回ぐらいは、映画や買い物に出かけたりして息抜きもします。
 

Q.将来の夢や目標は?

「ばあちゃんになるまで船頭をする!」それが一番の目標ですね。なるべく長く続けることです。
20代の時の自分がしゃべってお客様に喜ばれたことと、40代の自分がしゃべって喜ばれる雰囲気は違いますので、常に今の私ができる「生放送」を続けて(笑)、将来は「名物ばあちゃん」と言われるような船頭になりたいですね。
 

Q.日頃、心がけていることは?

まずは、自分らしく、普段どおりを心がけています。
案内役の船頭は皆それぞれ「味」が違っていて、その人その人の持ち味や良さを存分に出しているんですが、私も自分のもともと持つ個性を活かしてお客様と接するようにしています。
味は自分で作っていかなければいけません。誰かのマネではダメなんです。

舟に乗る目的も観光の他に研修や視察など様々で、乗船人数や年齢層、個人の方々のみなのか、ツアーなのかによっても案内する内容は変わってくるので、お客様を見ながら、色々なパターンを瞬時に組み合わせて、出来るだけ舟に乗っている時間にたくさん感動していただけるようにと心がけています。
海外の方が多くなってきているので、そういう時は無理に話すよりも、外国人の方でも知っているような歌を多く歌うようにしています。
例えば、台湾の方には演歌が喜ばれるんです。民謡も練習しています。

 

Q.最上地域の好きなところ 嫌いなところは?

最上地域の自然はとにかく素晴らしいですね。
都会にも海外にも無いし新しく作ることもできないものです。
私もそのおかげでこの仕事をしていますので、「昔のまんま、そのままが残っていること」これは大切にしていかなければいけないし、失くしてはいけないと思います。

ただ、車がないとどこにも行けない、買い物にも病院にも行けない。
この地域では交通手段と言えばほぼ車ですから、なければ何もできなくなってしまう。
これは多くの高齢者にとってはとても不便なことだなぁと感じますね。
 

最上地域の女性へメッセージ

女性にも出来ることは、まだまだあります!
男性が主流になっている職業でも、誰かがまずスタートを切れば、その後、女性が活躍できる場が増えると思いますよ。私もそうでしたから。
好きなことならチャレンジできると思いますし、もっともっと好きなことや得意なことを活かして、一緒にがんばっていきましょう。