JA真室川で営農販売課に所属する女性初の営農指導員。
農に関わる仕事がしたいと、大学でも農業を専攻するが、そこにたどり着くまでには長い道のりが…。            
二児の母・妻・嫁として、「こうあるべき」という理想と、「自分の代わりはいない」という仕事の間で揺れながら、目の前のことに全力で挑むパワフルウーマン。


"お姑さんは何もしなくていいって言ってくれるんですけど、嫁としてそれじゃダメだなっていう気持ちもあって。
子どもも「ばあちゃんに任せっきりで家のことを何にもしない」って言うわけですよ、その家その家で色々あっていいはずなのに。「母親は家事をするのが普通」って考え方を子どもなりに持ち始めていて。"

"もし私が男だったら、バリバリ仕事して毎日帰りが遅くても、休日に家族ケア出来ればそれでOKって納得できるはずなんですよ。女だからこその仕事と家庭の悩みなんだと思いますね。"


Q.営農指導員とはどんなお仕事ですか? この仕事についたきっかけは?

農家さんに「この肥料をあげてください」とか「このタイミングで追肥をしてください」とか、付加価値の高い農産物を作ってもらうための技術指導が仕事です。

実家も農家で、農業系の大学を卒業したらすぐに…と思っていたんですが、両親に就職しろと反対されて、それなら農協だと思って受けたんです。
受かればすぐ営農指導ができると思ったら、最初は共済の保険を8年担当しました。
半ばあきらめかけていたところに異動辞令が出て、最初は販売経理のほうでしたけど3年やって、その後、指導に回れということで、ようやくやりたかった仕事をすることになって。
本当に長かったですね(笑)。

いざなってみると、大学の勉強は基礎だし、卒業後10年以上たっているし、大変でした。
分からないことは県の普及課の先生方やあちこちに聞きました。
農家の方々が困って聞いてきているのに、分からないとは言えないし、そのままにはしないようにと、必死で勉強しましたね。
すぐには答えられなくても、「先日のあれですけど…」って、そうしているうちに少しずつ皆さんが頼ってくださるようになって、今は「昌子ちゃん」って呼んでもらってて(笑)。
「女は男より真面目だ〜」って評価してくださっています。
 

Q.一番やりがいを感じることは?

農家の方々が私の仕事によって良い野菜を生産できて、収入が上がること、目標は農家の所得向上です。
「仕事の成果=JA真室川の販売金額」だと思っています。ちゃんとやれば返ってくる、努力は裏切らないです。

以前は研修会などをやっても参加が少なくて、それじゃ駄目だと思って。
同じ情報を伝えるにも個別だと効率が悪いし、目揃い会とかするにも、生産者が集まらなければ目がそろわないから品質格差も生まれてしまって大変になるんです。

だからとにかく集まってくれって、出席率を上げていきました。収量が上がると皆さんの意識も変わってきましたね。

その一方で、農家さんの期待や要求も高くなるので、「いつ挫けちゃうか」ってプレッシャーも感じています。
やればやるほど課題は増えていく一方ですね(笑)。
 

Q.一番大変だったことは?

女だってことですかね。
今まで例が無いわけですから、人事をした上の方も、同僚も農家さんも、みんな「大丈夫か?」って思ってるわけですよ。
自分自身も不安でしたけど、もし私が駄目だったら、「女だから駄目だった」と言われるだろうし、そうは言われたくない。
仕事に男も女も関係ないと思っていても、比較される現実はどうにもできないじゃないですか?
私が音をあげたら次の女性はないなっていうプレッシャーも大きかったです。

それと、配属時に野菜の指導員は自分を含め3人いて、それが翌年1人定年退職。その後、もう1人が異動。3年目にして私だけになってしまったんです。
正直きつかったですね。
「私がやったから生産が落ちた、技術力が落ちたとは言われたくない」って必死でした。
 

Q.一番の悩みは?

上の娘が反抗期に入ってきて、朝は早いし夜は遅い、休みなく電話は来る、日中は外回り後に事務ワークをしちゃうと夜8時すぎになっちゃうこともあるので、特に平日はゆっくり子どもたちと関われないことにに対する反発がすごいんです。

好きな仕事でこれをやりたかったんですけど、でも子どもや家族も大事だし、母親の代わりは他にいないし…。
でも今仕事でも私の代わりはいなんですよ。だから、本当にこれが今一番の悩みですね。

自分自身がいっぱいいっぱいになっている時に寄ってきて、かまってほしいとか甘えたいっていう子どもの気持ちもよくわかるんですけど、仕事と家庭を両立していくためには、どっちとも折り合いをつけてやっていくしかなくて、そのバランスがすごく難しいです。

子どもの成長の中で一番関わらなきゃいけない時期に、十分に関われないでいることには負い目はあります。
平日はお姑さんが全部みてくれるので、だからとにかく土日の休みは子どもと過ごすようにしています。
家族との時間と仕事は切り分けるように極力気をつけてますね。

最近は農家さんたちも気を使ってくださって、朝8時半過ぎないと電話してきませんしね(笑)。
あと、努力っていうほどではないんですけど、子どもが遠足とかで弁当の時にはキャラ弁を「今度これ〜」っていう要望に応えて作ったりもします。


Q.昌子さんの性格は?

とにかく幼い時から負けず嫌いです。
男には負けたくない、女だからどうだとか言われたくないっていうのが強いですね。
あと、自分自身にも負けたくないんですよ。
自分の限界を決めたくないっていうか、仕事もMAXでやって、子どものこともできる限りはやって、って思っているんですけどね。
 

Q.リラックス方法は?

お菓子を作るのが好きなんで、事務職で時間が比較的あった頃は、実家で週一ぐらいで作っていました。

実家はお菓子加工所の許可をとっているのもあって、総合支庁とかに売りに行っていて、母がそこで大蔵村の方と知り合いになって、「おおくらくんクッキー」を依頼されちゃって(笑)。
とにかくストレス溜まるとお菓子作ってました。

下の子が生まれてからは、「今やらなきゃいけないのは子育てだ。お菓子作りは楽しいけど、そこまでしてしなきゃいけないことじゃない」って、クッキーは他にお願いして。
今でも子どもを引っ張り出して実家に農作業の手伝いに行くんですけど、お菓子はたまにです。


Q.将来の夢や目標は?

もしかしたら異動でまた事務職に戻るかもしれませんし、そうしたら肩の荷も下りると思うんですけど(笑)。
今より少し時間ができたら、またお菓子作りするぞって思います。

あとは何か資格を取ったり、勉強したいですね。
常に何か目標を持たないと駄目で、だらけちゃうのが嫌っていうか、今も「次はこれ」って段階を踏んで、資格にチャレンジしています。
結局、自分のがんばってる姿を子どもたちに見せておきたいんですよ。
一日の時間をどううまく使うか、やりくりが難しい。いつも分刻みで動いてます(笑)。
 

Q.地元真室川の好きなところ 嫌いなところは?

何といっても、農業ができる土地だってことですね。
農家が儲からないっていうのは違う。農業はやった分だけ自分に残る、やり方次第で一番良い仕事だと思います。
農家で育って、今も仕事で関わっているからそう思うのかもしれませんけど。

それと、よく学校や保育園とかで、農業体験があるじゃないですか?
農業って地域の基幹産業っていうだけじゃなく「食」でもあるので、子どもの成長や私たちの暮らしに直結してると思います。
それに関わる仕事が思いっきりできるところは素晴らしいと思いますね。

逆にマイナスは、男より女のほうがやらなきゃいけないことが多いってことですね。
家事だって決して平等じゃないし、嫁は娘とは違う、どこか自分の中でそう思うところがあるって感じます。
「女はこうじゃなきゃ、嫁はこうあるべき、母親は子育てをしなきゃいけない」って、誰かに言われたわけではないんですけど、周りがそうだから自分もそうじゃなきゃって思ってしまうのは、やっぱりこの地域だからかもしれないですね。
同居と核家族でもまた違うかもしれないけど。あと、「女は男の言うことをきけ」みたいな人も多いんじゃないかな?


最上地域の女性へメッセージ

やるって決めたらやってみる。
とことんやってそれで駄目なら仕方ないけど、でないとあきらめられないじゃないですか?
やらないであきらめるなんて私にはできないです。
どうしようかうだうだしてる時間ももったいない。

あと、自分に甘えない。
何かを成す人はチャレンジしてると思うし、無理だと言ってやらない人はそこで止まってしまうと思うし。
自分がこうなりたいって思ったら、とにかく始めないと始まらないと思いますね。
何事もやってやれないことはないと思っているので。何事も自分次第ですよ。

子どもにキャラ弁を要求されたら、「よーし!」って(笑)。
自分で自分の首を絞めてるだけかもしれないですけど(笑)。